2021年3月23日に「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(以下、新倫理指針と呼ぶ)が告示され、同4月16日同指針に対するガイダンスが定められました。
 治験および臨床研究法対応の研究を除く医学系研究においては、従来、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(医学系指針)および「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(ゲノム指針)の下に研究がなされてきました。しかしながら、医学系指針とゲノム指針(この2つを、以下、旧指針と呼ぶ)は、互いに重複する部分を含んでいながら若干の相違点があり、研究実施の手続きに際して混乱を生じる可能性がありました。そこで、2つの旧指針の内容を統合した新たな倫理指針が策定される流れとなり(実際には、医学系指針にゲノム指針が取り込まれた形になっています)、6月30日から施行となります。新倫理指針の施行に伴い、同6月30日をもって2つの旧指針は廃止され、それ以降に倫理審査される案件に関しては、新倫理指針を遵守して研究を行うことになります。
 新倫理指針に関しては先日アナウンスいたしましたが、ガイダンスが今回新たに発表されましたのでお知らせいたします。
 学会員におかれましては、治験および臨床研究法対応の研究を除く医学系研究において、本新倫理指針に従って研究を進めていただく様お願いいたします。

 なお、今回の改訂は、全く新しい指針が制定されたというわけではなく、従来の「医学系指針の修正」という立ち位置になるため、本新倫理指針の適応範囲は医学系指針と同じです。すなわち、人を対象としない研究(動物実験や細胞実験等)・症例報告・薬事申請のための試験(=治験)・医薬品や医療機器等を用いた医行為を伴う介入研究(=臨床研究法の範囲)を除く、人を対象とする生命科学・医学系研究(医工連携や人類学的観点から行う研究なども含む)が、本新倫理指針の対象となります。
 また、旧指針に基づいて実施中の研究は、今までどおり旧指針のまま研究の継続が可能であり、旧指針の下実施中の研究の変更申請等は、新倫理指針の下設置される倫理審査委員会にかけることが可能です。

旧指針からの主な改変点は以下の通りです。
(1) 指針名称の変更:2つの旧指針(医学系指針とゲノム指針)の統合
「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」
(略称:生命・医学系指針)

(2) 用語の定義:新たに以下の用語が定義されました
  ・研究協力機関:軽微な侵襲もしくは侵襲を伴わずに取得できる試料・情報の提供のみを行う機関(例えば、血液検体と患者情報のみを提供する、など)。今までは、共同研究機関に入れる必要がありましたが、新倫理指針では研究協力機関として扱うことが可能で、手続きが簡略化できる可能性があります。
・多機関共同研究:複数の研究機関で実施する研究(旧指針には定義がありませんでした)。「多施設」ではなく、「多機関」と呼称することになりました。
  ・研究代表者:多機関共同研究の代表者(これも旧指針には定義がありませんでした)
また、用語の定義が修正されました。
  ・研究者等:研究協力機関に所属し、試料の取得提供以外に関与しない者は研究者には含まれない、ことになりました。 

(3)多機関共同研究の審査の一本化(一研究一審査の原則):
 多機関共同研究では、「原則、1つの倫理審査委員会による一括した審査を求めなければならない」と規定されました。それに伴い、「研究計画書も1つの研究ごとに1つのみ」となり、各共同研究機関で変更可能な部分は「研究責任者名や相談窓口の連絡先」程度に限定されます。

(4) インフォームドコンセント(IC)等の手続きの見直し:電磁的方法(デジタルデバイスやオンライン等)を用いてICを行うことが許容されました。

(5) 研究により得られた結果等の取り扱いにかかわる規定:
 ゲノム指針に記載されていた内容を整理して規定されました。ゲノム研究のみならず、一般の医学系研究でも留意すべき事項である「結果」(偶発的所見など)の開示等をどのように扱うかについて規定されています。

(6) 公開データベースへの登録:
 介入研究だけでなく、観察研究においても、研究の実施に先立ってjRCTやUMINなどの公開データベースに登録することが求められるようになりました(努力義務)。

 
 実際の倫理審査については、介入研究か観察研究か、多機関共同研究の代表か、個人識別符号に該当する範囲のゲノム解析を行うか、小児など特別な配慮が必要な者を研究対象に含むか、などによって異なってくる可能性があり、各自の施設における審査体制をよくご確認ください。

 まだQ&Aが出ておらず、細かい点の対応等が定まっていない部分があります。必要に応じて、適宜アップデートしてまいります。

人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(301KB)
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダンス(936KB)

研究倫理審査委員会
委員長 森田明夫
副委員長 清水宏明